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ブログ 蔵談義

蔵人 頭役 盛川禎彦「米を活かす技」の巻

2021.1.21

渡辺酒造店の蔵人となって15年目の仕込み時期を迎える盛川禎彦。杜氏を先頭に、蔵人全員が心を合わせて取り組む酒造りに大きな魅力を感じています。この冬の仕込みを前に、気を引き締めながら、意気込みを語ってくれました。

Q:渡辺酒造店で蔵人として働き始めたきっかけを教えてください。
盛川:昔渡辺酒造店で蔵人として働いていた2つ上の兄が、修行のために他の蔵に移るという時、板垣元杜氏から声をかけられたのがきっかけです。その時私は地元のスーパーで働いていたのですが、岩手花巻という蔵人が身近な存在であった地域性と、私自身若かったので、とりあえずやってみるか、という軽い気持ちで、蔵人としての第一歩を歩き始めました。

Q:もともとお酒(日本酒)はお好きだったんですか?
盛川:私がお酒を飲めるようになったころはまだ日本酒回帰が起こり始めたすぐのころで、数種のプレミアム酒がもてはやされていたものの、私たちが通常口にする日本酒といえば大手メーカーのお酒やパック酒で、味もイメージもよくなく、ほとんど飲むことはありませんでした。Q:そんなイメージを持った中、歳で蔵人の道へ。不安などはありませんでしたか?
盛川:兄が蔵人をやっていたおかげで、そうではないお酒があるだろうとは直感的に思っていました。そのため、自分が今まで飲んでいたようなお酒を造るのとは全く別の世界へ飛び込むような感覚でした。
ただ正直、一番最初に渡辺酒造店に来る時、岐阜県の位置すらあやふやな中飛行機に乗り込む時には少し不安でしたね。

Q:今年の酒造りから杜氏を補佐するナンバー2の頭役に抜擢されましたが。
盛川:建設現場でいえば現場監督を任されたとイメージしています。社長をはじめとする経営側から建設の発注があり、それを杜氏が設計する、そしてそれを頭が各部署へ落とし込む、といったイメージです。これまではもろみ管理の責任者としてもろみ師を年近くやってきたのですが、今年からは全体を見渡せる少し高いところの目線を持たなくちゃいけないという自覚が芽生えてきました。また、現場を円滑に回すことができるよう、蔵人の人間関係にも気を配るようになりました。

Q:酒造りの上で、新頭として大事にしたい想いは何ですか?
盛川:「できない」とは言わず、とりあえずやってみる姿勢です。これは板垣前杜氏から習ったというか一緒に仕事をしてきて背中で教えて頂いたのですが、板垣前杜氏は「できない」という言葉を使わないんです。与えられた状況の中、また変化する状況に対して「やってみます」と返答されるんです。しかもそれは適当に返答されるのではなく、知識や経験に裏打ちされているため、やってみますと返答したからには不思議とできてしまうんです。まだ若い私で、経験の裏打ちは少ないですが、少なくとも「できない」という言葉は封印しようと思っています。Q:そんな板垣前杜氏が引退されました。そして今年からは岡田新杜氏を迎え、また若い蔵人も増えてフレッシュな体制で取り組むことになりましたがいかがですか。
盛川:新しい杜氏さんを迎え、新加入の若い蔵人のおかげで平均年齢が下がり、名実ともにリフレッシュ。これから渡辺酒造店の新しいステージが始まるぞ!という身が引き締まる気持ちです。ただ本当は、今までは自分が一番の若手のポジションだったのですが、自分より若い蔵人が入ることで、教育係としてまた先輩として見られる側として身も心も緊張しています。

Q:盛川さんが蔵人となってからも渡辺酒造店は先進的な取り組みを行ってきていますが、それに関してはいかがですか。率直に教えてください。
盛川:まず蔵まつりに関してですが、私自身研究者肌で小心者なのでいまだに緊張してしまい、自分自身楽しんでいる余裕がないのが実情です。ただ笑顔で来場されるお客様、美味しいよと言っていただけるお客様と直接接することができる蔵まつりはとても貴重な経験でありがたいと思っています。
お酒づくりに関して言えば、求められる酒類やイメージが多岐にわたることは蔵人として腕の見せ所なので胃が痛い思いはしますが、とてもやりがいがある男子一生の仕事だと思います。ただ最近は使う酒米の酒類が増えてきているのでこれには難儀します。使ったことのない米の場合、水の吸い込みスピードや適量水量などのデータのストックがないため、蔵人のネットワークの中でいろいろな情報を得て対応しているのですが、もしもっと稀少米になった場合、そのネットワークで対応できるのか不安です。しかも稀少米の場合、やり直しがきかないケースがほとんどですから、生きた心地がしません。

Q:盛川さんが酒造りの現場において気をつけていることは?
盛川:美味しいお酒づくり、設計イメージにあったお酒づくりは言うまでもありませんが、衛生面と事故を起こさないことです。せっかくの技術や経験があってもこの2つを怠ってしまってしまえば元も子もありません。私自身、衛生面での問題や事故を起こしたことがないのが自分でも誇りです。

Q:それでは最後にお好きなお酒は?
盛川:一番のお気に入りは「小町桜」ですね。飛騨の風土が育てただけあって、ゆっくり呑んでいると飛騨のおじちゃんの笑顔が浮かんでくるような、そんな落ち着きがあるんです。これは、毎日飲んでも飽きません。

聞き手/村坂壽紀
インタビューをさせて頂いている最中、終始落ち着いており、あまり感情を表に出されない方でしたがお酒づくりの事や酒づくりの姿勢に関して話が及んだ際には非常に熱く語っていただきました。また事故回避に対する意識がとても高く、非常に堅実な方とお見受けしました。
先進的でかつユニークな発想で大輪を咲かせている渡辺酒造店も、草の根では、このような堅実な方の支えがあってこそのことなのだとこのインタビューを通じで感じることができました。

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