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2022.8.2
麹ってなに?日本酒造りに欠かせない麹菌の役割について詳しく解説【渡辺酒造店】
麹ってなに?日本酒造りに欠かせない
麹菌の役割について詳しく解説【渡辺酒造店】
日本酒造りに欠かせない米麹は、蒸した米に麹菌を繁殖させたもの。
それは日本酒だけでなく、味噌や醤油、漬物、甘酒などの発酵食品の製造に使われています。
お米からアルコールを発生させるために、必要不可欠な麹。
という事で、今回は酒造りの基礎である、麹について一緒に勉強してみましょう。
麹菌とは
麹菌とは、麹をつくるための糸状菌の総称のことをいいます。
糸状菌類とはその名の通り糸状の菌糸(きんし)で生活する微生物で、一般的には「カビ」と呼ばれているものです。
麹菌は日本をはじめ、湿度の高い東アジアや東南アジアにしか生息していません。
なかでも日本の麹菌は「コウジカビ」と言い、中国や台湾、朝鮮半島などに生息する「クモノスカビ」とは異なり、
日本の「国菌」に認定されています。
しかし、日本の麹菌は自然界の中では強くなく、穀物をただ部屋に入れておくだけでは、他のカビに負けて麹菌が繁殖することはほとんどありません。
そこで、日本酒を造る場合、お米を蒸して殺菌したのち、清潔な部屋の中で広げ、
そこに培養した麹菌の胞子を撒くことで、お米の1粒1粒に麹菌が繁殖して一気に菌が生育するという手法を取っています。
麹菌はたんぱく質をアミノ酸に分解する「プロテアーゼ」や、でんぷんを糖に分解する「アミラーゼ」、
脂質を分解する「リパーゼ」をはじめ、たくさんの酵素を生成します。
そして、その酵素の働きによって、素材をやわらかくしたり、発酵食品の旨みや甘味を引き出したりしているのです。
麹菌によってつくられる発酵食品
冒頭で述べたように、麹菌は日本酒だけでなく、味噌、醤油、みりん、米酢、甘酒、漬け物など、
日本由来の発酵調味料や発酵食品の多くに用いられています。
麹菌にも種類があり、味噌用・醤油用・清酒用・焼酎用などの用途によって、働きの異なる菌(種麹)が存在しています。
麹菌はそのまま使うのではなく、お米、麦、大豆などに加えて培養させた「麹」にして使用します。
そして、どんな食材(培地)で菌を繁殖させるかによって、「米麹」「麦麹」「大豆麹」と、できあがる麹の種類が変わってくるのです。
麹菌のはたらき
麹菌が生み出す酵素の力によって、食べ物の中のでんぷんやたんぱく質が分解され、体内での消化・吸収が効率よくできるようになったり、
酵素によって生み出されるオリゴ糖をエサに腸内の善玉菌が活性化し、腸内環境が良くなったりします。
さらに、麹菌は豊富なビタミンやミネラルなどの栄養素をつくり、疲労回復や美容促進にも関係しているといいます。
酒造りにはアルコール発酵が欠かせませんが、酒米を蒸して水と一緒に酵母をタンクへ入れるだけでは、アルコール発酵することはできません。
なぜならば、お米の主成分はデンプンであり、アルコール発酵を可能にする糖分は含まれないからです。
アルコール発酵のためには、お米のデンプンを糖に変えなければなりません。
そのデンプンを糖に変えるのが「麹菌」の役割です。
麹菌がデンプンを糖に変えた後、今度は「酵母菌」が糖をアルコールに変化させることにより、日本酒ができるのです。
デンプンはブドウ糖が連なってできているもので、アルコールにするにはその連なりを絶ってブドウ糖単体にする必要があります。
麹はブドウ糖とブドウ糖が連なっている部分を切るはたらきをします。これを「糖化」といいます。
この糖化の過程がなければ、お米から「日本酒」を造ることはできません。
また、日本酒の味わいを造るうえでも麹菌は大きな役割を果たしています。
麹は「タンパク質分解酵素」をもっていて、米のタンパク質をアミノ酸に変化させる役割を担っています。
タンパク質から分解されて生成されたアミノ酸は、日本酒のコクや旨味の素になるのです。
麹菌は温度管理が重要
麹菌を米に付着させ、米の中で麹菌を繁殖させる麹造りの工程は、「製麹(せいきく)」とも呼ばれます。
製麹においてもっとも重要なのは、適切な温度管理です。
麹菌の繁殖適応温度は30〜40度といわれています。
15度以下では働かなくなり、50度を超えると死滅してしまいます。
つまり、適切な温度管理が麹菌の繁殖には非常に重要なのです。
温度管理といっても、エアコンで一定の室温にしていれば良いということではありません。
麹菌は生きていて、呼吸をしながら繁殖します。
呼吸の際には、熱と炭酸ガスを発生するため、放っておくと温度は上がり続け、やがて死滅してしまいます。
また、炭酸ガスを放出しますので、適度に空気を入れ替えないと酸素不足になり、繁殖できなくなってしまうのです。
そのため、製麹は保温・換気・適切な湿度管理ができる部屋で行われる必要があります。
麹造りの期間は、蒸米を混ぜ込んで保温(床もみ)、ほぐして放熱(切り返し)、再び混ぜ込み保温、
麹菌の繁殖によって温度が上がったら放熱という作業を繰り返します。
麹造りに要する時間は二昼夜(約48時間)。この期間は、常に繁殖適応温度をキープできるよう注意が必要です。
麹の効果・効能
麹菌によって造られる麹は、ビタミンB群や、葉酸などの栄養を豊富に含んでいます。
米麹から造られる甘酒が、別名「飲む点滴」と呼ばれるのも、とても栄養価が高いことに由来しています。
そんなたくさんの栄養素を持つ麹は、多くの効果・効能を持つことでも知られています。
ここで、その一例を紹介します。
・美肌の促進
米麹に含まれる成分のはたらきで、肌の角質層にあるセラミドを増加することが解明されています。
肌の保湿性を高めるセラミドの増加によって、美肌の促進が見込めると言われています。
・メタボリックシンドロームの改善
麹に含まれるグルコシルセラミドという成分には、中性脂質吸収抑制などに効果があるとされています。
今後さらに研究が進めば、麹がメタボリックシンドロームの改善に広く役立てられていく可能性があります。
このように麹の持つ効果・効能は多方面にわたり、益々その可能性への期待が高まっていくことが予想されます。
まとめ
麹は、日本酒を造るうえでなくてはならない存在なのはもちろん、その働きによって日本酒のコクや旨味を生み出しています。
さらに、美肌促進やメタボリックシンドロームの改善の効果があるなんて嬉しいですね。
麹菌の役割や働きに目を向けることで、今まで以上に、楽しく・美味しく日本酒を楽しめるのではないのでしょうか。
バテそうな暑い日にこそ、しっかりと冷やした日本酒を飲んで夏を乗り切りましょう!!
[ 参考文献・ページ ]
・ゼロから分かる! 図解日本酒入門 単行本 – 山本 洋子 (著)
・もっと日本酒が好きになる情報がいっぱい!!―酒みづき
・KUBOTAYA