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2022.9.7

酒蔵によって呼び方が違う? 酒造りに使う道具についてご紹介 【渡辺酒造店】

酒造りには、様々な道具が使用されます。
その道具は、独特な形や名前も多く、同じ道具でも地域や杜氏の流派によって呼称が違ってくるのも、
非常に興味深いところです。

今回は、酒造りの際に使用する道具たちについてご紹介いたします。

麹室での作業

 

甑(こしき)

甑は、洗米後の酒米を蒸し上げるための、アルミやステンレス製の大きなせいろ釜を指します。
まず入荷してきたお米を洗い、水を吸わせた後に、甑に入れます。
甑の底に開けてある小さな穴から高温の蒸気が入り込み、中のお米が蒸され
るという仕組みです。

甑 甑でお米を蒸し上げる様子 甑を洗う蔵人

当蔵で現在使用している甑の、一度に蒸すことのできる酒米の量は、最大で約1.5トン。
計2台を同時に稼働させ、約3トンのお米を蒸すことができます。
釜の底部分には焦げないようダミー米と呼ばれる偽物のプラスチック米を下に敷き、
大きなネットで仕切りながら重ねていき、数種類の酒米を一度に蒸し上げます。

甑の底にダミー米を敷く様子 甑の内部

酒造り最盛期の毎朝8時。お米が蒸しあがる時間には、炊きたてごはんの香りと、
外の雪景色に温泉のような湯気が立ち昇り、何とも幻想的な光景が広がります。

蒸しあがった酒米 甑と蔵人

 

ブンジ  (呼び方が違う可能性あり)

ブンジは、蒸米を釜から掘り出したり、放冷機などに送りこんだりする時に使う、
船のオール
のような形をした木製の道具で、主に麹室や釜場で使います

漢字では、”分師・分司”と書くそうです。

ブンジ ブンジと米 麴室での作業

酒蔵で使われる木製道具のほとんどは、丈夫ですぐに折れたりしないように、
素材は樫(か
し)の木などの硬い素材が多く使われています。

カタナの代わりに、当蔵ではブンジを使って麹を切り崩しており、
使い慣らされて形も丸みを帯びてきていますが、
麹室の作業には無くてはならない存在です。

どこの蔵でも使われているようですが、なぜブンジという名称なのかはわかっていません。

麹室の内部とブンジ

 

カタナ  (呼び方が違う可能性あり)

カタナは、麹室に入ってきた蒸米を切り分けるのに使われる道具で、
当蔵では代わりにブンジを使用しているため、ここでは見かけません。

木製のものが多いですが、ステンレスやチタン製のカタナを使っている酒蔵もあるそうです。

蒸したお米は重いので、身体全体に力を込めて切り分けていきます。
切れ味が悪くなってきたカタナは鉋(かんな)で研ぐことでその切れ味が復活します。

長年使っていると、だんだん小さくなってきてしまいますが、全国新酒鑑評会で金賞を獲った時や、
酒蔵で苦労した時の思い出が詰まっているので、古いカタナは思い出として飾ってあり、
今も麹室の壁で新しいカタナの働きを見守っている蔵もあるそうです。

 

タメシオケ  (呼び方が違う可能性あり)

「タメシ」「タメオケ」「タメ」などとも呼ばれたりします。漢字で表記すると ”試桶” になります。

一斗(約18リットル)の液体が入れられる、取っ手付きのバケツのようなものです。
取っ手に
は膨らみがついており、握った時にすっぽ抜けにくい構造になっています。
材質はステンレ
スやFRP(繊維強化プラスチック)などさまざまで、タメシオケ自体もそこそこの重さです。
れにお酒や水を入れて運びます。

作業中の蔵人 タメシオケ

その他にも、水を量ったり、麹米や酒米を入れたり、醪(もろみ)の付いた櫂棒(かいぼう)を入れて
洗い場まで運ん
だりと用途は様々で、「洗い場専用」「酒専用」などで使い分けられています。

タメシオケを使う作業中の蔵人

 

ヨクタガリ  (呼び方が違う可能性あり)

ヨクタガリは野球部がグラウンドで使うトンボのような道具で、蒸米や麹をならすために使います。

製麴の工程は麹の温度管理が非常に重要です。
麹菌が十分に繁殖していない場合は、温度を保つために麹を寄せ集め、表面積を小さくします。
その後、麹菌の繁殖とともに麹をならし、表面積を大きくして温度が上がりすぎない
ようにします。

ヨクタガリ 作業中の蔵人

盛り(麹を床から別の場所に移す作業)の最中はできるだけ早く・厚く・なだらかに麹をならす必要があるので、
「ヨクタガリ」を使用します。

リーチが長いため、たくさんの麹を手前に引き寄せることができます。
すべての麹を盛った
後は手作業で、もしくは板を使って丁寧にならしていきます。

ちなみに、ヨクタガリを使用する際、必ず自分の方向へ引き込んで使うことから、
『欲を・たがる(話し手の希望を表す、〇〇したがる)=自分の方向へ寄せる』という言葉が、由来となっているそうです。

 

動物の名前のついた道具たち

さる、きつね、たぬき、かえる… 酒造りの現場では、時に様々な動物の名前が登場します。

例えば“さる”は、甑の底に空けられた穴に乗せる小さな道具で、釜から立ち昇る大量の蒸気を、
均一に分散させる役割を果たします。

形が、猿の伏せた姿や顔に似ているから、赤みを帯びた材料の杉が、真っ赤な猿のお尻を連想させるからなど、
名前の由来には諸説あるそうです。

甑の底に設置する、サル 甑の底に設置する、サル

“たぬき”や“きつね”は、同じく手桶を指しますが、用途によって形が異なり、丸みがあるものを“たぬき”、
先が尖った桶を“きつね”と呼びます。

木桶のキツネ

それ以外にも、ねこ(踏み台)、かえる(スロープのような形の台)などの名前もあり、
その理由は、かつては現在のような義務教育の制度がなく、小学校を出たぐらいの年齢で蔵人として働き始めることも珍しくなく、
誰もが理解でき、なおかつ親しみが湧きやすい動物の名前で呼んでいたといわれています。

その昔、蔵人の手造りでつくられていた道具類。
木樽や木工道具の製作を手掛け、メンテナンスをする専属職人もいたそうですね。

作業中の蔵人

 

まとめ

これまでご紹介してきたように酒造りに使う道具は様々で、名前を聞いてみても皆様にはピンとこないものも
多いのではないでしょうか。

現在に至るまで長い間使われてきた酒造りの道具は、日本の文化として独自の発展を遂げてきました。

全国各地には各酒蔵で実際に使用されてきた道具の展示施設もあるようなので、ご興味がある方は、
ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

 

【 参考資料 】
https://jp.sake-times.com/think/study/sake_g_tools-for-sake
https://jp.sake-times.com/think/study/sake_g_tools-for-sake2
https://www.kyoto-minpo.net/sake/archives/002001_/002030_/

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