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2022.3.21
生酛造りってどんな製法か知っていますか?
聞いたことはあるけど、じつは知らないお酒の豆知識 【渡辺酒造店】
■生酛造りとは
生酛(きもと)造りとは、酒母の製法の一つで、1700年頃の江戸時代中期に基本的な製法が確立された、歴史ある製法のことで、
簡単にいえば、「酒母を手作業で造る手法」です。
日本酒を造る過程のひとつに、「酒母造り」があります。
酒母(しゅぼ)とは、蒸した米と水に麹、酵母を加えたもので、酵母を培養することによって日本酒の発酵の元になるもので、
酒母の別名を「酛(もと)」と呼びます。
この酒母が、日本酒の原型である「醪(もろみ)」のベースになります。
酒母は、糖をアルコールに変える酵母の集合体のようなものですが、酵母とともに重要なのが “乳酸菌” の存在です。
乳酸菌から生まれる乳酸には、日本酒にとって必要のない雑菌を死滅させる役割があります。
乳酸が入っていない酒母は、さまざまな雑菌によって侵食され、やがて腐ってしまいます。
酒母において、いわば酵母と乳酸は、二人三脚の存在といえるわけです。
乳酸菌には善玉乳酸菌と悪玉乳酸菌があるのですが、善玉乳酸菌は7℃前後の低温でも生えるのに対して、
悪玉乳酸菌は10℃以上でないと生えないという性質を利用し、生酛系酒母の仕込みは通常、温度を5〜9℃程度の低温に置き行われます。
通常の日本酒造りでは、酒母の仕込み当初に醸造用乳酸を加えますが、生酛造りでは乳酸も手作業で造ります。
人工の乳酸を使った酒母を「速醸酛(そくじょうもと)」、天然の乳酸を使った酒母を「生酛」と呼びます。
■乳酸菌を添加せず、一から育てる方法
現在では乳酸は人工的につくられたものがありますが、生成された乳酸がない以前の時代は、乳酸も手作りでつくられていました。
米や米麹をすり潰し、溶かしてドロドロの液体にすることで乳酸菌が発生しやすい環境をつくり、空気中の乳酸菌を取り入れ、増やしていくのです。
このすり潰す作業のことを「山卸し(やまおろし)」や「酛擦り(もとすり)」と呼びます。
実は乳酸というキーワードで、酒母の性格は大きく変わります。
自然の中で乳酸を得たいと思えば、乳酸菌を育てなければなりません。
しかし自然界にはたくさんの微生物がいて、常にサバイバルが行われています。
そのサバイバルを通して強い乳酸菌をうまく取り込み、育てるのが「生酛」。
そうすると、乳酸菌を含めたくさんの微生物が織りなす、いのちの営みがそのまま日本酒の味になるのです。
■生酛造りと山廃仕込みの違い
山廃仕込みは、山卸しをせずに乳酸菌を培養して、日本酒を造る製法を指します。【山】卸しを【廃】止した製法なので、山廃というわけです。
山卸しの工程で重要なことは米を溶かすことですが、山卸しは、冬の寒い時期に深夜から早朝にかけて1日に何度も酒米をかき回し、すり潰さなければならない重労働です。
加えて、熟練の技術が必要なため、誰でもできるというものではありません。技術革新や研究の成果により、明治時代末期には山卸しをしなくても麹から溶け出した酵素の力で
米が溶けることが分かりました。
独特の味わいを生み出す「山廃仕込み」、その癖になる独特の味わいの魅力から、現代でも製法のひとつとして取り入れられています。
■生酛造りのメリット
①圧倒的な酵母純度の高さ
各種の酒母製造法の中で、伝統的な生酛造りが最も酵母の純度が高くなります。
速醸酛では、最初に添加する乳酸液によって雑菌を死滅させますが、乳酸が次第に分解されて薄れてしまった後に侵入してくる
野生酵母に対しては阻⽌力がありません。
これに対し、生酛では野生酵母が侵入しても淘汰する仕組みが出来ているので、純度が高くなります。
②時間経過による品質劣化が少ない
生酛造りで造られたお酒は、時間の経過による品質劣化が少ないのが特徴です。熟成の速度がゆっくりである上に、
成分に抗酸化性があり、劣化しにくいと言われています。
品質劣化が少ないので、逆に言えば熟成によってますます美味しく成長していきます。
■生酛造りの味わい
生酛造りの日本酒は、深みのある味わいとコクが魅力です。
手造りの酒母から育った酵母菌は、生命力があり、丈夫で長生きといわれています。
発酵の最後まで生きているので、余分な糖分を残さないのが大きな特徴です。
生酛造りは、いわばお米の旨みを最大限に引き出す製法なのです。
生酛造りの日本酒はスッキリとした酸やキレがありつつも、濃醇な味わいであり、燗にして飲むにもぴったりですが、
当蔵で発売している純米大吟醸の生酛の場合には、冷やして飲んでいただく方が良いです。
そのお酒の精米歩合によって、適した温度帯でせひ召し上がってみてください。
■渡辺酒造店でおすすめの生酛造りの日本酒
【 蓬莱 純米大吟醸生酛 高島雄町 】
雄町米の元祖・古式酒造法の原点「生酛づくり」に挑戦しました。
かすかに漂うマスカットや林檎のような芳香。
なだらかな味の起伏を帯びた、優しく包容力のある飲み口は、生酛特有のコクがしっかりと溶け込んでいます。
酵母は、渡辺家の所有する飛騨の山林から採取した自社開発「ど根性酵母・WO1」。
アルコール度数:16度
日本酒度:3.5
酸度:2
■最後に
生酛造りの日本酒は、昔ながらの製法で、手間と時間をかけて造る伝統的なお酒です。
それだけに大量生産は難しく、いつでもどこでも手に入るというものではありません。
現代でもなお根強いファンが多いのも、生酛が今なお絶えることなく造られ続けている理由でもあります。
コクが深く、パワフルで濃厚な飲み口ながらスッキリとしたキレのある味わいの、生酛造りの日本酒。
お店で見つけたら、ぜひ一度試してみてください。